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「シアトル宇和島屋」

宇和島屋ベルビュー店.jpg
宇和島屋ベルビュー店(2016年9月、シアトル)

キーワード:宇和島屋・日系移民・食料品店・アジアの食文化

問題の設定

1. 20世紀初頭にアメリカに渡った愛媛県八幡浜出身の一家が起こした食料品店・宇和島屋(本社・ワシントン州シアトル)が、「アメリカで最も成功した日系スーパーマーケット」と言われるまでに発展した要因と、そのプロセスにおいて日系移民の出身地におけるローカルな知や経験が移民先社会にもたらした影響を、聞き取り調査や刊行物等の分析から究明する。宇和島屋の実践・経験は、地方発の日系企業が海外で事業展開する際の参考となるものと考える。
 

研究報告2017

研究報告(2018年4月19日更新)

 2017年3月11日、18日(土曜日・午前10時〜午後4時)、宇和島屋店頭にて顧客アンケートを行いました。この調査の目的は、宇和島屋を利用しているお客さんが、宇和島屋の何に魅きつけられて利用しているのかを知ることで、特に人種や知日度による影響はあるかどうかが気になっていました。

 宇和島屋はワシントン州および隣のオレンゴン州に合計で4店舗ありますが、そのうち本店であるシアトル店と、近年IT産業の集積により発展し、日本人(日系人)が多く暮らすベルビュー店の2店舗で調査を実施することにしました。調査方法は、買い物を終えた顧客に出口付近で声をかけ、タブレットにダウンロードした質問に回答してもらうというやり方です。調査員は、愛媛大学と交流協定を締結しているワシントン大学ボセル校の協力により、同大学の学生8名(1店舗4名)が受け持ってくれました。

 

ベルビュー店での調査のようす。店内には創 業者の写真が掲げられている

●ベルビュー店での調査のようす。店内には創業者の写真が掲げられている  

 

シアトル店では若者もたくさん回答してくれた

●シアトル店では若者もたくさん回答してくれた

 

 また、現地コーディネーター役を室橋美紗氏に依頼し、愛媛大学からシアトル宇和島屋プロジェクトのメンバー3名(佐藤亮子、三上了、ルース・バージン)が当日の調査を統括しました。

 アンケート結果の一次データとしては(以下、シアトル店とベルビュー店を総合したもの)、来店頻度は月1〜4回が67%で最も多かったですが、月5回以上という人も16%ほどいました。しかしその一方で、他の大型アジア食材店(宇和島屋と競合する店)に月1〜4回行っているという回答が約52%、小規模のアジア食材店の利用も34%ほどあり、宇和島屋だけでアジア食材の調達をしているわけでは必ずしもなさそうです。

 来店目的は、「日常の定期的な食材の購入」「アジア商品の購入」「日本の商品の購入」の順番で多く(複数回答)、それぞれ回答者の3割を超えていました。何を購入したかという質問に対しても、約8割の人が「日本のもの」を、約6割が日本以外のアジアのもの、約45%が日本を含むアジア以外のものの購入と回答しており、宇和島屋では「日本のものも買うけど、日本以外のアジア食材も、非アジア系の食材も」購入している状況が見て取れます。ちなみに購入金額は49.02ドル(平均値)でした。

 また、宇和島屋の創業者が日本人であることについては8割以上の顧客が認識していましたが、残念ながら愛媛の出身であると知っているのは2割強にとどまりました。

 さて、問題の「顧客は何に魅きつけられているのか」ですが、ここから先は同プロジェクトのメンバーである三上准教授による分析をご紹介します。

 まず、宇和島屋で買い物しているお客さんの店に対する“貢献”については、①購入金額、②相対的利用頻度、③来店距離で測ることができると考えました(従属変数)。そしてそれに対し、ア)人種、イ)知日度・親日度、ウ)店に持つイメージがどう作用しているか(説明変数)を見ました。イメージについては、新鮮・真正(本物)・親しみやすさ・清潔・個性・便利・信頼性・リーズナブル・健康的・実用性・雰囲気など20の単語のなかから宇和島屋にもつイメーズを5つまで選択してもらい、標準化しました。

 結論としては、単純にア)人種(日本人ないし日系人、非日系アジア人、非アジア人)によって店への貢献①〜③にもたらす差は見られませんでした。いっぽうでイ)知日度・親日度すなわち日本との関係が強いほど購入金額が上がり、また遠方からの来店を促しているという結果でした。そしてウ)イメージによる影響としては、「個性」と「信頼性」のイメージの強さが購入金額に影響し、「実用性」と「雰囲気」に対するイメージが来店距離を伸ばすという結果になりました。なかでも抱くイメージが人種によって偏りがある点がまた興味深く、たとえば非アジア系のお客さん(白人など)は「個性」「雰囲気」が、非日系アジア人は「信頼性」に、日系ないし日本人は「信頼性」と「実用性」というイメージが印象に残っている。つまり人種は、間接的ではあるけれど、お店への“貢献”に少なからず影響しているとも言えます。

 以上のような昨年度の調査結果を踏まえ、今年度(2017年度)は全米展開している日本食材を中心としたスーパーマーケットに対し、内容の重複した顧客アンケートを実施しました。また、宇和島屋同様、日系移民が20世紀初頭にワシントン州の隣・オレゴン州で創業したスーパーマーケット(2014年に閉店)の関係者からも聞き取り調査を行いました。これらの結果についてはまた改めて報告したいと思います。

 

今年度の調査は愛媛大学の法被を着て

●今年度の調査は愛媛大学の法被を着て  

 

「あなたはなぜ宇和島屋で買い物をするのですか?」が調査のキャッチコピー

●「あなたはなぜ宇和島屋で買い物をするのですか?」が調査のキャッチコピー

 

 なお、昨年度の顧客調査については、2017年10月に開催された中四国法政学会で三上教員から報告がなされたほか、近日中に論文としても発表予定です。

(文責・佐藤亮子)

 

2016年度の目標

1. 宇和島屋のファミリー・ヒストリーや事業展開の特徴等に関するヒアリングや、シアトル市周辺の食料品店(スーパー)に対するアンケートにより、分析のための基礎的データを収集する。

 

研究報告2016

研究報告(11月7日更新)

シアトル現地調査part 1

 9月18日から23日にかけて、シアトルで第1回の現地調査を行った。

 昨年、大学構内で森口富雄氏とユニットのメンバーで顔合わせのミーティングをしてから、初めての本格的な調査であるため、まずは全体像の把握が目的であった。内容としては以下の3点である。

 ① 宇和島屋関係者からの聞き取り
 ② 宇和島屋にまつわる人々からの聞き取り
 ③ 定量的調査の下調べ
 ④ その他
 

1.宇和島屋関係者からの聞き取り

森口富雄氏(次男)
Kenzo氏(長男)
渡部美沙緒氏(スタッフ)
Suwako氏(長女)
Danise氏(富雄氏長女→next CEO)
Tomoko氏(三女→現CEO)
Jason Nakaya氏(妹Hisako氏息子)

 宇和島屋は、愛媛県八幡浜市出身の森口富士松・定子夫妻が1928年にワシントン州タコマで起こした事業(食品店)である。店舗での営業に加え、ピュージェット湾地域で働く日本人向けに、蒲鉾(ジャコ天)や豆腐などを製造・販売していた。

宇和島屋ベルビュー店
●宇和島屋ベルビュー店

パイクプレースマーケットに掲げられた絵(シリーズの一部)と説明書き
●パイクプレースマーケットに掲げられた絵(シリーズの一部)と説明書き

パイクプレースマーケットに掲げられた絵(シリーズの一部)と説明書き
●パイクプレースマーケットに掲げられた絵(シリーズの一部)と説明書き

1942年には日系人収容所に入ったため一時中断したが、1945年にシアトルに場所を移し、再開した。その後の主な年譜をまとめると以下のようになる。

1945年 シアトル・日本街に宇和島屋オープン
1962年
 
万国博覧会出店
富士松氏亡くなる→富雄氏へ
1966年 卸売会社を設立
1970年 キング通りに移転
1978年 ベルビュー店オープン
1983年 食品加工部オープン
1988年 アジア系レストランへの卸し始める
1998年 ビーバートン店(オレゴン州)オープン
2000年 宇和島屋ヴィレッジ(現本店)オープン
2002年 定子氏亡くなる
2008年 CEO 交代(Tomoko さんへ)
2009年 レントン店オープン
2011年 ベルビュー店移転

 宇和島屋関係者への聞き取りにより、まず森口家の構成と、それぞれが事業にどのように関わってきたのか。また、創業者である富士松氏の人柄や思いを受け継いで日系人社会を基盤に事業を広げてきたが、近年はアジア系食材を扱う店として、白人系のアメリカ人にも広く受け入れられている様子。その背景には、日本食ブームが追い風となってきたことがある。

 シアトル市内・近郊には、エスニック食材を扱う食料品店は多いが、宇和島屋はそれらとは扱う商品や店舗の雰囲気が大きく異なっている。スーパーマーケットではあるが、一般的な食材を扱う店ではなく、自らを「スペシャリティ」店として位置付けている。
 

  • 2. 宇和島屋にまつわる人々からの聞き取り

    宇和島屋ベルビュー店は、2011年に移転・リニューアルされた。店内には創業者である森口富士松・定子夫妻のポスターが貼られていた
    ●宇和島屋ベルビュー店は、2011年に移転・リニューアルされた。店内には創業者である森口富士松・定子夫妻のポスターが貼られていた。

    森口富雄氏が代表を務める日系新聞『北米報知』編集長と、同氏が仲間とともに立ち上げた高齢者施設「Keiro Northwest」事務局長からお話をうかがった。日系人社会のなかで宇和島屋は、日本食の調達の場所であるばかりでなく、文化的シンボルであることが、両氏の話から伝わってきた。と同時に、富雄氏が日系人コミュニティに貢献し、現在も重要視していることがわかった。
     

  • 3. 定量的調査の下調べ

     シアトル市およびその近郊の食料品店(スーパーマーケット)への調査を実施するにあたり、状況把握のため宇和島屋と比較するのに適当な数店を選んで視察を行った。訪問したのは、

    ・Metropolitan Market (Non Ethnic)
    ・Town & Country Market (Non Ethnic)
    ・PCC Natural Markets  (Non Ethnic)
    ・HT Oaktree Market  (Asian & European)
    ・Oriental Gift and Food (Korean)
    ・H-Mart Bellevue   (Korean)

    である。このうち、Non Ethnic系で宇和島屋と競合すると思われるのはPCC Natural Market、Ethnic系ではH-Martではないかという印象を受けた。

     また中央図書館にて、データベース検索から、食料品店のリスト(キング郡エリア)を入手した。

     

  • 4. その他

     このほかシアトルでは、ワシントン州日本文化会館を見学し、同施設を会場として開かれた日系人会のランチミーティングに参加させていただいた。ここで何人かの口から「八幡浜出身」という言葉を聞いたことから、愛媛県人会はすでに活動していないが、なんらかの人的ネットワーク(あるいは系譜)が残っているものを思われる。

     また、International Examiner 42nd Anniversaryにも同席させていただいた。アジア系を含めたエスニック系の移民コミュニティとも、森口富雄氏はていねいにつきあい、支援もしている。

     シアトルの観光名所にもなっているPike Place Marketの入り口には、ここに出荷している農家の様子を描いた絵が掲げられているが、そこに添えられた文章によると、1941年時、このマーケットの出荷農家の3分の2が日系人であったとある。こうしたシアトルには欠かせない場所にも、日系人の功績と足跡を見つけ、感銘を受けた。

     なお今回の調査ではシアトルに加え、オレゴン州ポートランドでもスーパーマーケット数店、日系人が立ち上げた農産物直売所、宇和島屋ビーバートン店を視察し、情報収集を行った。

     

    以上

 
リンク

愛媛大学

愛媛大学法文学部